トリマーとして働いていると、日々の施術の中で「ヒヤッ」とする瞬間に遭遇することがあります。
どんなに経験を積んでも、犬の性格や体調、環境によって予期せぬ出来事は起こり得るものです。
今回は、実際のサロン現場で耳にする「ヒヤリ体験」を整理し、考えられる原因と具体的な対処法をまとめました。これからの施術に役立つチェックリストとしてご活用ください。
目次
1|ハサミやバリカンによる「小さなケガ」
ヒヤリ体験
- 足先を整えているときに犬が急に動き、ハサミの刃先が皮膚をかすった
- バリカンを当てた際に、皮膚を巻き込んでしまった
- 耳の毛を整えているときに犬が首を振り、軽く傷が入った
原因
- 犬が落ち着いていない状態で施術を始めてしまった
- 器具の切れ味や整備不足
- トリマー自身の姿勢や固定方法が不十分
対処法
- すぐに作業を中断し、出血や傷の状態を確認する
- 小さなかすり傷でも、止血・消毒を行い、飼い主に正直に伝える
- 万一、深めの傷がある場合は、動物病院の受診をすすめる
- その場しのぎではなく、器具のメンテナンスや保定の工夫を見直す
2|犬の体調不良(嘔吐・下痢・失神など)
ヒヤリ体験
- シャンプー中に犬が急に嘔吐
- ドライング中に呼吸が荒くなり、ぐったりした
- 高齢犬が施術中に失神してしまった
原因
- 来店前から体調が万全でなかった
- 過度な緊張やストレス
- 心臓病・てんかんなどの既往症が影響
対処法
- まずは施術を中止して、犬を安全な体勢に寝かせる
- 呼吸や脈を確認し、必要に応じて動物病院に連絡
- 飼い主には「施術中にこういうことがあった」と経緯を説明し、今後の受け入れ方針を相談
- 定期的に「持病や投薬の有無」をヒアリングする仕組みを作る
3|逃走・転落事故
ヒヤリ体験
- トリミング台から飛び降りてしまった
- ドアの隙間から犬が外に出そうになった
- お迎え時にリードが緩んで逃げかけた
原因
- 目や手を離してしまった
- 首輪やリードの装着確認が不十分
- サロンのドア・ゲートの管理不足
対処法
- 施術中は必ず首輪・リード・ハーネスを確認
- トリミング台には必ずアームや安全リードを使用
- 入口には二重扉やゲートを設置し、逃走リスクを最小化
- お迎え時には「リードを持っていただいてからお渡し」するルールを徹底
4|噛みつき・引っかきによるケガ
ヒヤリ体験
- 爪切りのときに噛まれた
- 足裏バリカンのときに暴れて引っかかれた
- 耳掃除のときに急に怒って噛みつこうとした
原因
- 犬が過去に嫌な経験をしており、施術にトラウマがある
- 体調不良やストレスが原因で防御反応を示した
- トリマーの動きが急で、犬を驚かせてしまった
対処法
- 無理に続行せず、犬の様子を観察して休憩を入れる
- マズルガードやエリザベスカラーを必要に応じて使用
- 飼い主に「嫌がりが強い部分」を事前に確認
- 噛まれた場合は応急処置をして、医療機関での受診を検討
5|薬用シャンプーやトリートメントでのトラブル
ヒヤリ体験
- 薬用シャンプーが目に入ってしまった
- 皮膚の赤みが強く出てしまった
- 仕上げ後に飼い主から「痒がっている」と連絡があった
原因
- 洗浄剤の希釈不足やすすぎ不足
- 薬用シャンプーの放置時間を誤った
- 犬の皮膚に合わない製品を使用
対処法
- 目に入った場合はすぐに流水で十分に洗い流す
- 異常が出た際は飼い主に正直に伝え、病院受診をすすめる
- 薬用シャンプーは事前に必ず獣医師の指示を確認
- サロン内で使用するシャンプーの種類や成分をスタッフ間で共有する
6|電気・設備トラブル
ヒヤリ体験
- ドライヤーがショートして焦げ臭い匂いがした
- 突然の停電でドライングが中断
- 温風が熱すぎて犬がびっくりした
原因
- 機材のメンテナンス不足
- 電気容量オーバー
- 温度管理や距離の不注意
対処法
- 定期的に機材の点検・清掃を行う
- ブレーカーの容量を確認し、同時使用の機器数を調整
- ドライヤーは必ず犬から一定距離を保つ
7|「ヒヤリ体験」を減らすための仕組みづくり
どんなに気をつけていても、100%リスクをなくすことはできません。
大切なのは「ヒヤリ体験を共有し、仕組みとして改善していくこと」です。
- スタッフ間でヒヤリ体験を共有するノートを設置
- ミーティングで事例を振り返る
- チェックリストを用意し、作業前後で確認
こうした取り組みは、事故防止だけでなく「新人教育の質向上」にもつながります。
まとめ|ヒヤリ体験から学ぶ安全なトリミング
トリミング中に起きるヒヤリ体験は、決して「避けられない失敗」ではなく、安全な施術のヒントが詰まった貴重な機会です。
重要なのは、起きた出来事をただ記憶するのではなく、なぜ起きたのか、次にどう防ぐかを振り返ることです。
- 作業手順や保定方法を見直す
- 器具のメンテナンスや環境チェックを徹底する
- 犬の性格や体調に合わせた施術計画を立てる
こうした小さな工夫の積み重ねが、ヒヤリ体験を未然に防ぎ、犬も飼い主もトリマーも安心できるサロン環境を作ります。
日々の施術を振り返り、経験を着実に「安全で質の高いトリミング」につなげていきましょう!


