トリミングサロンで働いていると、どんなに経験を積んでいても悩まされるのが「噛む・暴れる」ワンちゃんの対応。
性格や過去の経験によって、トリミングに強いストレスを感じる子も少なくありません。
本記事では、噛む・暴れる子にどう向き合えばいいのか、現場で実践できる対応術を詳しくご紹介します。
トリマーとしての負担を軽減しながら、ワンちゃんにも飼い主さんにも安心してもらえるスキルを身につけていきましょう。
なぜ噛んだり暴れたりするのか?原因を知ることが第一歩
噛みつきや暴れは“問題行動”に見えがちですが、犬にとっては防衛反応や不安のサインであることがほとんどです。
まずは行動の原因を理解することが、適切な対応につながります。
主な理由
原因 | 特徴や具体例 |
恐怖・不安 | 初対面の人や場所に対して怯える、過去に嫌な経験がある |
痛み | シニア犬や皮膚病がある子など、触れられると痛い部位がある |
社会化不足 | 若いうちにトリミング経験がなく、扱われることに慣れていない |
トリミングへの嫌悪感 | 爪切りやバリカンの音に過剰反応する、苦手な工程がある |
飼い主依存 | 飼い主と離れることで情緒が不安定になる |
こうした背景を考慮したうえで、「その子の性格に合ったアプローチ」を選ぶことが重要です。
【対応術1】カウンセリングで「性格と過去」を探る
暴れる・噛む原因は“初めての現場では見抜きにくい”ものです。
そのため、事前のカウンセリングは絶対に欠かせません。
質問の例
- トリミングは何回目か?
- 苦手な工程(爪切り、耳掃除、ドライヤーなど)はあるか?
- いつもは自宅でどんなお手入れをしているか?
- 体を触ると嫌がる部位があるか?
特に、過去に噛んだ経験のある子は、その状況や原因を具体的に聞き取ることが大切です。
「前にトリマーさんを噛んでしまって…」という情報が得られれば、事前に安全対策を立てることができます。
飼い主さんとの信頼関係づくりも大事
対応が難しそうな場合は、「一度様子を見てからご相談させてください」と丁寧に伝えることで、無理な施術によるトラブルを未然に防ぐことができます。
【対応術2】ムリせず、安全を最優先にした施術を
噛む・暴れる子への対応で何より大切なのは、トリマー自身の安全と犬への負担軽減です。
噛み癖がある子には…
- マズルガード(口輪)を活用
→無理に使うのではなく、負担が少ない素材のものを選び、短時間のみ使用 - バスタオル包み
→保定の安定感が増し、視界を遮ることで落ち着く子も - 1人で無理せず、2人体制にする
→安全確保だけでなく、施術スピードもUP
暴れる子には…
- 高めのトリミング台ではなく、床で作業
→転落リスクを避け、安全を確保 - 時間を区切る
→短時間×複数回に分けて施術 - こまめな声かけ・休憩
→「大丈夫だよ」「えらいね」と安心感を与える
※犬が本気でパニックを起こしている場合は、無理に進めず中断や中止の判断も視野に入れましょう。
【対応術3】コミュニケーション力を高めるコツ
犬と意思疎通ができるようになると、暴れや噛みもグッと減ってきます。
トリマーとしての**「犬との関係構築力」**を磨くことも、長く通ってもらえるサロン作りには欠かせません。
日頃からできるポイント
- 施術前に軽く触れ合う時間を取る(信頼感UP)
- 怖がる様子を見せたらすぐにペースダウン(犬の感情を尊重)
- ボディランゲージを読み取る
→耳を伏せる、尻尾を巻く、白目が見える…などは不安サイン
ご褒美の活用も効果的
施術中や終了後におやつをご褒美として与えることで、「ここは嫌な場所じゃない」とポジティブに記憶させることができます。
(※アレルギーなどがないか、事前確認を忘れずに)
【対応術4】少しずつ慣らしていく「慣らしトリミング」
一度で仕上げることが難しい場合は、複数回に分けた「慣らしトリミング」を提案しましょう。
慣らしトリミングの一例(3回コース)
回数 | 内容 |
初回 | ご来店&カウンセリング、軽いブラッシング・触れ合い |
2回目 | 爪切り・足裏バリカンなど最低限の施術 |
3回目 | シャンプーや全身カットまで進行 |
このように段階を踏んで慣らしていくことで、犬も「怖くない」と理解していきます。
リピーターにもつながりやすく、長期的に見てもメリット大です。
【対応術5】「預かる前提」でのプラン提案も選択肢に
どうしてもその場での施術が難しい子には、ペットホテルや一時預かりの併用を提案するのも一つの手。
例
- 来店からすぐトリミングせず、1時間程度サロン内で過ごしてもらう
- 他のワンちゃんの様子を見て環境に慣れさせる
- トリマーとのスキンシップを経てから施術
「すぐ施術を完了させなければいけない」という固定概念を取り払い、ワンちゃんの心の準備を大切にする姿勢が信頼につながります。
トリマー同士で情報共有を!1人で抱え込まないことも大切
難しい子の対応は、トリマー個人で抱え込まずにチームで対応策を練ることが重要です。
- 社内ミーティングで共有
- 施術の様子を動画やメモで記録
- 「この子はこうすると落ち着く」など引き継ぎポイントを蓄積
複数人で対応することで安全面も強化され、スタッフ間の連携がスムーズになります。
【まとめ】“苦手な子”を受け入れることが信頼につながる
噛む・暴れるワンちゃんへの対応は、簡単ではありません。
しかし、その子の背景や気持ちに寄り添い、できることから丁寧に積み重ねていくことで、少しずつ心を開いてくれることも多いです。
噛んだり暴れたりする子への対応は、サロンの技術力とホスピタリティが試される場面です。
「できる限り受け入れたい」という姿勢と、「無理をしない判断力」――その両方を大切にしながら、安全で心地よい施術を目指しましょう。